あなたの側でも父や兄がこの関係に好意を持ってくれそうなことを私は今から心配している。忘れずにまた逢いに来る私を待っていてください」
などと、安っぽい浮気《うわき》男の口ぶりでものを言っていた。
「人にこの秘密を知らせたくありませんから、私は手紙もようあげません」
女は素直《すなお》に言っていた。
「皆に怪しがられるようにしてはいけないが、この家の小さい殿上人《てんじょうびと》ね、あれに託して私も手紙をあげよう。気をつけなくてはいけませんよ、秘密をだれにも知らせないように」
と言い置いて、源氏は恋人がさっき脱いで行ったらしい一枚の薄衣《うすもの》を手に持って出た。
隣の室に寝ていた小君《こぎみ》を起こすと、源氏のことを気がかりに思いながら寝ていたので、すぐに目をさました。小君が妻戸を静かにあけると、年の寄った女の声で、
「だれですか」
おおげさに言った。めんどうだと思いながら小君は、
「私だ」
と言う。
「こんな夜中にどこへおいでになるんですか」
小賢《こざか》しい老女がこちらへ歩いて来るふうである。小君は憎らしく思って、
「ちょっと外へ出るだけだよ」
と言いながら源氏を
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