気がするとも帝はお思いになった。
「死んだ大納言の遺言を苦労して実行した未亡人への酬《むく》いは、更衣を後宮の一段高い位置にすえることだ、そうしたいと自分はいつも思っていたが、何もかも皆夢になった」
とお言いになって、未亡人に限りない同情をしておいでになった。
「しかし、あの人はいなくても若宮が天子にでもなる日が来れば、故人に后《きさき》の位を贈ることもできる。それまで生きていたいとあの夫人は思っているだろう」
などという仰せがあった。命婦《みょうぶ》は贈られた物を御前《おまえ》へ並べた。これが唐《から》の幻術師が他界の楊貴妃《ようきひ》に逢《あ》って得て来た玉の簪《かざし》であったらと、帝はかいないこともお思いになった。
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尋ね行くまぼろしもがなつてにても魂《たま》のありかをそこと知るべく
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絵で見る楊貴妃はどんなに名手の描《か》いたものでも、絵における表現は限りがあって、それほどのすぐれた顔も持っていない。太液《たいえき》の池の蓮花《れんげ》にも、未央宮《びおうきゅう》の柳の趣にもその人は似ていたであろうが、また唐《から》の服
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