が歌われたものばかりを帝はお読みになった。帝は命婦にこまごまと大納言《だいなごん》家の様子をお聞きになった。身にしむ思いを得て来たことを命婦は外へ声をはばかりながら申し上げた。未亡人の御返事を帝は御覧になる。
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もったいなさをどう始末いたしてよろしゅうございますやら。こうした仰せを承りましても愚か者はただ悲しい悲しいとばかり思われるのでございます。
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荒き風防ぎし蔭《かげ》の枯れしより小萩《こはぎ》が上ぞしづ心無き
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というような、歌の価値の疑わしいようなものも書かれてあるが、悲しみのために落ち着かない心で詠《よ》んでいるのであるからと寛大に御覧になった。帝はある程度まではおさえていねばならぬ悲しみであると思召すが、それが御困難であるらしい。はじめて桐壺《きりつぼ》の更衣《こうい》の上がって来たころのことなどまでがお心の表面に浮かび上がってきてはいっそう暗い悲しみに帝をお誘いした。その当時しばらく別れているということさえも自分にはつらかったのに、こうして一人でも生きていられるものであると思うと自分は偽り者のような
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