に、髪上げの用具のはいった箱を添えて贈った。
 若い女房たちの更衣の死を悲しむのはむろんであるが、宮中住まいをしなれていて、寂しく物足らず思われることが多く、お優しい帝《みかど》の御様子を思ったりして、若宮が早く御所へお帰りになるようにと促すのであるが、不幸な自分がごいっしょに上がっていることも、また世間に批難の材料を与えるようなものであろうし、またそれかといって若宮とお別れしている苦痛にも堪《た》えきれる自信がないと未亡人は思うので、結局若宮の宮中入りは実行性に乏しかった。
 御所へ帰った命婦は、まだ宵《よい》のままで御寝室へはいっておいでにならない帝を気の毒に思った。中庭の秋の花の盛りなのを愛していらっしゃるふうをあそばして凡庸でない女房四、五人をおそばに置いて話をしておいでになるのであった。このごろ始終帝の御覧になるものは、玄宗《げんそう》皇帝と楊貴妃《ようきひ》の恋を題材にした白楽天の長恨歌《ちょうごんか》を、亭子院《ていしいん》が絵にあそばして、伊勢《いせ》や貫之《つらゆき》に歌をお詠《よ》ませになった巻き物で、そのほか日本文学でも、支那《しな》のでも、愛人に別れた人の悲しみ
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