であった。そして女は極めて緩く鈍く薄笑いに笑った。それは笑いというべきものであったか、何であったか分らぬ、如何なる画にも彫刻にも無い、妖異《ようい》で凄惨《せいさん》なものであった。
 定基が定基であったなら、一石が池水に投ぜられたのであったから、波瀾淪※[#「さんずい+猗」、第3水準1−87−6]《はらんりんい》はここに生ぜずには済まなかったろう。然し寂照は寂照であった、鳥影が池上に墜《お》ちたのみであったから、白蘋緑蒲《はくひんりょくほ》、かつて動かずであった。今は六波羅密《ろくはらみつ》の薄い衣《ころも》に身を護られて、風の射る箭《や》もとおらざる境界《きょうがい》に在るものであった。忍辱《にんじょく》波羅密《はらみつ》、禅波羅密、般若《はんにゃ》波羅密の自然の動きは、逼《せま》り来る魔※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《まえん》をも毒箭をも容易に遮断し消融せしめた。寂照はただ穏やかに合掌した。諸仏|菩薩《ぼさつ》の虚空に充満して居られて此方を瞰《み》ていらるるに対し、奉恩謝徳の念のみの湧き上るに任せた。我に吹掛ける火※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−6
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