ら云えば、勿論のこと、神に献げる犠牲などは論ずるにも足らぬことで、其様《そん》なことを否認などしては国家の組織は解体するのであるから、巌窟《がんくつ》に孤独生活でも営んでいる者で無い限りは犠牲ということを疑ってはならぬのが、人間世界の実状である。扨《さて》それから少し後《あと》のことであった。今まで狩猟などをも悦《よろこ》んでいたことであるから定基のところへ生き雉子《きじ》を献じたものがあった。定基は、此の雉子生けながら作りて食わん、味やよき、心みん、と言い出した。奴僕《ぬぼく》の中《うち》の心のあらい者は、主人を神とも思っているから、然様《さよう》でござる、それは一段と味も勝り申そうと云い、少し物わかりのした者は、それは酷《むご》いとは思ったが、諫《いさ》め止《とど》めるまでにも至らなかった。やがてむしらせると、雉子はばたばたとするのを、取って抑えてむしりにむしった。鳥は堪らぬから、涙の目をしばたたきて、あたりの人々を見る。目を見合せては流石に哀れに堪兼ねて立退くものもあったが、鳴き居るは、などと却《かえ》って興じ笑いつつ猶もむしり立てる強者《つわもの》もあった。※[#「てへん+劣」
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