しい美人を譬《たと》えに引くのも大袈裟《おおげさ》だが、色を貪《むさぼ》るという語に縁の有るところがら、楚王が陳を討破って後に夏姫《かき》を納《い》れんとした時、申公《しんこう》巫臣《ふしん》が諫《いさ》めた、「色を貪るを淫と為す、淫を大罰と為す」と云ったのを思い出して、色を貪るのを愚《ぐ》なことだと云いもしたろう。貪色《たんしょく》の二字は実に女の美《よ》いのを愛《め》ずる者にはピンと響かずには居ない語だ。夏姫というのは下らない女ではあったが、大層美い女だったには疑無い。荘王は巫臣の諫を容れて何事も無く済んだが、巫臣が不祥の女だと云った如く、到るところに不幸を播《ま》いた女であった。夏姫に力寿を比したでも何でも無かったろうが、貪色というが如き一語は定基には強く響いたことだろう。全く色を貪って居たには違無いのだから。すべて人は何様いう強《きつ》いことを言われても、急所に触れないのは捨てても置けるものであるが、たまたま逆鱗《げきりん》即ち急所に触れることを言われると腹を立てるものである。グッと反対心敵対心の火炎《ほのお》を挙げるものである。ここまでは好くない顔はしていても、別に逆らうでも
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