《きんとうきょう》、中納言を辞そうとなさるのである。そこで同卿が紀[#(ノ)]斉名に辞表を草するように御依頼なされた。斉名は筆を揮《ふる》って書いた。ところで卿の御気に召さなかった。そして卿は更《あらた》めて大江[#(ノ)]以言に委嘱された。以言も骨を折って起草した。然るに以言の草稿をも飽足らず思召《おぼしめ》して、其果に此の匡衡に文案して欲しいとの御頼みなのだ。斉名の文は典雅荘重であり、以言の文は奇を出し才を騁《は》せ、其風体各々異なれど、いずれも文章の海山の竜であり象である。然るに両人の文いずれも御心にあかずして、更に匡衡に篤く御頼みありたりとて、同題にして異色の文、既に二章まで成りたる上は、匡衡が作、いずれのところにか筆を立てむ。御辞退申兼ねて帰りては来たれども、これを思うに、われも亦御心に飽かずとせらるる文字をつらぬるに過ぎざらんと、口惜しくもまた心苦しくおもうのである、と話した。公任卿は元来学問詩歌の才に長けたまえるのに、かかる場合に立たせられた夫が、困りもし悶《もだ》えもするのは文章で立っている身の道理千万の事と、右衛門は何の答をすることも出来ず、しばし思案に沈んだが、斯様
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