とであった。まさかオンバコやスギ菜を取って食わせる訳にもゆかず、せめてスカンポか茅花《つばな》でも無いかと思っても見当らず、茗荷《みょうが》ぐらいは有りそうなものと思ってもそれも無し、山椒《さんしょ》でも有ったら木《こ》の芽《め》だけでもよいがと、苦《くるし》みながら四方《あたり》を見廻《みまわ》しても何も無かった。八重桜が時々見える。あの花に味噌を着けたら食えぬことは有るまい、最後はそれだ、と腹の中で定《き》めながら、なお四辺を見て行くと、百姓家の小汚《こぎたな》い孤屋《こおく》の背戸に椎《しい》の樹《き》まじりに粟《くり》だか何だか三四本|生《は》えてる樹蔭《こかげ》に、黄色い四|弁《べん》の花の咲いている、毛の生えた茎《くき》から、薄い軟《やわ》らかげな裏の白い、桑のような形に裂《き》れこみの大きい葉の出ているものがあった。何というものか知らないが、菜の類《たぐい》の花を着けているからその類のものだろうと、別に食べる気でも食べさせる気でも無かったが、真鍮刀でその一茎を切って手にして一行のところへ戻《もど》って来ると、鼠股引は目敏《めざと》くも、それは何です、と問うた。何だか知らな
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