引氏に渡すと、氏は直《ただち》にそれを予《よ》に逓与《わた》して、わたしはこれは要《い》らない、と云いながら、見つけたものが有るのか、ちょっと歩きぬけて、百姓家《ひゃくしょうや》の背戸《せど》の雑樹籬《ぞうきがき》のところへ行った。籬には蔓草《つるぐさ》が埒無《らちな》く纏《まと》いついていて、それに黄色い花がたくさん咲きかけていた。その花や莟《つぼみ》をチョイチョイ摘取《つみと》って、ふところの紙の上に盛溢《もりこぼ》れるほど持って来た。サア、味噌までにも及びません、と仲直り気味にまず予に薦《すす》めてくれた。花は唇形《しんけい》で、少し佳い香《かおり》がある。食べると甘い、忍冬花《すいかずら》であった。これに機嫌《きげん》を直して、楽しく一杯酒を賞《しょう》した。
氏はまた蒲公英《たんぽぽ》少しと、蕗《ふき》の晩《おく》れ出《で》の芽《め》とを採ってくれた。双方《そうほう》共に苦いが、蕗の芽は特《こと》に苦い。しかしいずれもごく少許《しょうきょ》を味噌と共に味わえば、酒客好《しゅかくごの》みのものであった。
困ったのは自分が何か採ろうと思っても自分の眼《め》に何も入らなかったこ
前へ
次へ
全14ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング