れないものだった。何です、これは、と変な顔をして自分が問うと、鼠股引氏が、薺《なずな》さ、ペンペン草も君はご存知ないのかエ、と意地の悪い云い方をした。エ、ペンペン草で一盃《いっぱい》飲まされたのですか、と自分が思わず呆《あき》れて不興《ふきょう》して言うと、いいサ、粥《かゆ》じゃあ一番いきな色を見せるという憎《にく》くもないものだから、と股引氏はいよいよ人を茶《ちゃ》にしている。土耳古帽氏は復《ふたた》び畠の傍《そば》から何か採《と》って来て、自分の不興を埋合《うめあわ》せるつもりでもあるように、それならこれはどうです、と差出してくれた。それを見ると東坡巾先生は悲しむように妙《みょう》に笑ったが、まず自ら手を出して喫べたから、自分も安心して味噌を着けて試みたが、歯切れの好いのみで、可も不可も無い。よく視《み》るとハコべの※[#「嗽」の「口」に代えて「女」、第4水準2−5−78]《わか》いのだったので、ア、コリャ助からない、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《とり》じゃあ有るまいし、と手に残したのを抛捨《なげす》てると、一同《みんな》がハハハと笑った。
 土耳古帽氏が真鍮刀を鼠股
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