ずら》わしいことが現われようとも、それは第二段の事で、差当っては長閑《のどか》な日に友人の手紙、それが心境に投げられた恵光《けいこう》で無いことは無い。
 見るとその三四の郵便物の中の一番上になっている一封の文字は、先輩《せんぱい》の某氏《ぼうし》の筆《ふで》であることは明らかであった。そして名宛《なあて》の左側の、親展とか侍曹《じそう》とか至急とか書くべきところに、閑事《かんじ》という二字が記されてあった。閑事と表記してあるのは、急を要する用事でも何んでも無いから、忙《いそ》がしくなかったら披《ひら》いて読め、他《た》に心の惹《ひ》かれる事でもあったら後廻《あとまわ》しにしてよい、という注意である。ところがその閑事としてあったのが嬉《うれ》しくて、他の郵書よりはまず第一にそれを手にして開読した、さも大至急とでも注記してあったものを受取ったように。
 書中のおもむきは、過日|絮談《じょだん》の折にお話したごとく某々氏|等《ら》と瓢酒《ひょうしゅ》野蔬《やそ》で春郊《しゅんこう》漫歩《まんぽ》の半日を楽《たのし》もうと好晴の日に出掛《でか》ける、貴居《ききょ》はすでに都外故その節《せつ》
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