の焼味噌にそれを突掛《つっか》けて喫《た》べて、余りの半盃を嚥《の》んだ。土耳古帽氏も同じくそうした。東坡巾先生は味噌は携《たずさ》えていなくって、君がたんと持って来たろうと思っていたといって自分に出させた。果して自分が他に比すれば馬鹿《ばか》に大きな板を二枚持っていたので、人々に哄笑《こうしょう》された。自分も一|顆《か》の球を取って人々の為《な》すがごとくにした。球は野蒜《のびる》であった。焼味噌の塩味《しおみ》香気《こうき》と合《がっ》したその辛味《からみ》臭気《しゅうき》は酒を下《くだ》すにちょっとおもしろいおかしみがあった。
 真鍮刀は土耳古帽氏にわたされた。一同《みんな》はまたぶらぶらと笑語しながら堤上や堤下を歩いた。ふと土耳古帽氏は堤下の田の畔《くろ》へ立寄って何か採《と》った。皆々はそれを受けたが、もっさりした小さな草だった。東坡巾先生は叮嚀《ていねい》にその疎葉《そよう》を捨て、中心部の※[#「嗽」の「口」に代えて「女」、第4水準2−5−78]《わか》いところを揀《えら》んで少し喫《た》べた。自分はいきなり味噌をつけて喫べたが、微《すこ》しく甘《あま》いが褒《ほ》められないものだった。何です、これは、と変な顔をして自分が問うと、鼠股引氏が、薺《なずな》さ、ペンペン草も君はご存知ないのかエ、と意地の悪い云い方をした。エ、ペンペン草で一盃《いっぱい》飲まされたのですか、と自分が思わず呆《あき》れて不興《ふきょう》して言うと、いいサ、粥《かゆ》じゃあ一番いきな色を見せるという憎《にく》くもないものだから、と股引氏はいよいよ人を茶《ちゃ》にしている。土耳古帽氏は復《ふたた》び畠の傍《そば》から何か採《と》って来て、自分の不興を埋合《うめあわ》せるつもりでもあるように、それならこれはどうです、と差出してくれた。それを見ると東坡巾先生は悲しむように妙《みょう》に笑ったが、まず自ら手を出して喫べたから、自分も安心して味噌を着けて試みたが、歯切れの好いのみで、可も不可も無い。よく視《み》るとハコべの※[#「嗽」の「口」に代えて「女」、第4水準2−5−78]《わか》いのだったので、ア、コリャ助からない、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《とり》じゃあ有るまいし、と手に残したのを抛捨《なげす》てると、一同《みんな》がハハハと笑った。
 土耳古帽氏が真鍮刀を鼠股
前へ 次へ
全7ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング