している。忍術というのは明治になっては魔法妖術という意味に用いられたが、これは戦乱の世に敵状を知るべく潜入密偵するの術で、少しは印《いん》を結び咒《じゅ》を持する真言宗様《しんごんしゅうよう》の事をも用いたにもせよ、兵家《へいか》の事であるのがその本来である。合気の術は剣客武芸者等の我が神威を以て敵の意気を摧《くじ》くので、鍛錬した我が気の冴《さえ》を微妙の機によって敵に徹するのである。正木《まさき》の気合《きあい》の談《はなし》を考えて、それが如何なるものかを猜《さい》することが出来る。魔法の類ではない。妖術幻術というはただ字面《じめん》の通りである。しかし支那流の妖術幻術、印度流の幻師の法を伝えた痕跡はむしろ少い。小角《しょうかく》や浄蔵《じょうぞう》などの奇蹟は妖術幻術の中には算《さん》していないで、神通道力というように取扱い来っている。小角は道士羽客《どうしうかく》の流にも大日本史などでは扱われているが、小角の事はすべて小角死して二百年ばかりになって聖宝《しょうぼう》が出た頃からいろいろ取囃《とりはや》されたもので、その間に二百年の空隙があるから、聖宝の偉大なことやその道とした
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