った。武家の尊崇によって愛宕は最も盛大な時であったろうが、こういう訳で生れた政元は、生れぬさきより恐ろしいものと因縁があったのである。
政元は幼時からこの訳で愛宕を尊崇した。最も愛宕尊崇は一体の世の風であったろうが、自分の特別因縁で特別尊崇をした。数※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》社参する中《うち》に、修験者らから神怪|幻詭《げんき》の偉い談《だん》などを聞かされて、身に浸みたのであろう、長ずるに及んで何不自由なき大名の身でありながら、葷腥《くんせい》を遠ざけて滋味《じみ》を食《くら》わず、身を持する謹厳で、超人間の境界を得たい望《のぞみ》に現世の欲楽を取ることを敢《あえ》てしなかった。ここは政元も偉かった。憾《うら》むらくは良い師を得なかったようである。婦人に接しない。これも差支《さしつかえ》ないことであった。自由の利く者は誰しも享楽主義になりたがるこの不穏な世に大自由の出来る身を以て、淫欲までを禁遏《きんあつ》したのは恐ろしい信仰心の凝固《こりかたま》りであった。そして畏るべき鉄のような厳冷な態度で修法をはじめた。勿論生やさしい料簡|方《がた》で出来る事ではない。
政
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