風邪《かぜ》でも引かしッたか。
 両手で頬杖《ほおづえ》しながら匍匐臥《はらばいね》にまだ臥《ふし》たる主人《あるじ》、懶惰《ぶしょう》にも眼ばかり動かして一《ひ》ト眼《め》見しが、身体《からだ》はなお毫《すこし》も動かさず、
「日瓢《にっぴょう》さんか、ナニ風邪じゃあねえ、フテ寝というのよ。まあ上るがいい。
とは云いたれど上りてもらいたくも無さそうな顔なり。
「ハハハ、運を寝て待つつもりかネ、上ってもご馳走《ちそう》は無さそうだ。
「違《ちげ》えねえ、煙草《たばこ》の火ぐらいなもんだ。
「ハハハ、これではお互《たがい》に浮ばれない。時に明日《あす》の晩からは柳原《やなぎはら》の例のところに○州屋《まるしゅうや》の乾分《こぶん》の、ええと、誰《だれ》とやらの手で始まるそうだ、菓子屋の源《げん》に昨日《きのう》そう聞いたが一緒《いっしょ》に行きなさらぬか。
「往《い》かれたら往こうわ、ムムそれを云いに来たのか。
「そうさ、お互に少し中《あた》り屋《や》さんにならねばならん。
「誰だってそうおもわねえものは無《ね》えんだ、御祖師様《おそしさま》でも頼みなせえ。
「からかいなさるな、罰《ばち
前へ 次へ
全24ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング