の後になって何が有るエ。
「しみッたれるなイ、裸百貫《はだかひゃっかん》男|一匹《いっぴき》だ。
「ホホホホホ、大きな声をお出しでない、隣家《おとなり》の児《こ》が起きると内儀《おかみさん》の内職の邪魔《じゃま》になるわネ。そんならいいよ買って来るから。
と女房は台所へ出て、まだ新しい味噌漉《みそこし》を手にし、外へ出でんとす。
「オイオイ此品《これ》でも持って行かねえでどうするつもりだ。
と呼びかけて亭主のいうに、ちょっと振《ふ》りかえって嬉《うれ》しそうに莞爾《にっこり》笑い、
「いいよ、黙《だま》って待っておいで。
たちまち姿《すがた》は見えずなって、四五|軒《けん》先の鍛冶屋《かじや》が鎚《つち》の音ばかりトンケンコン、トンケンコンと残る。亭主はちょっと考えしが、
「ハテナ、近所の奴《やつ》に貸た銭でもあるかしらん。知人《なじみ》も無さそうだし、貸す風でもねえが。
と独語《ひとりご》つところへ、うッそりと来かかる四十ばかりの男、薄汚《うすぎたな》い衣服《なり》、髪垢《ふけ》だらけの頭したるが、裏口から覗《のぞ》きこみながら、異《おつ》に潰《つぶ》れた声で呼《よ》ぶ。
「大将、
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