えよ、狂人にでもならなくって詰るもんか。アハハハハ、銭《ぜに》が無い時あ狂人が洒落《しゃれ》てらあナ。
「お銭《あし》が有ったらエ。
「フン、有情漢《いろおとこ》よ、オイ悪かあ無かったろう。
「いやだネ知らないよ。
「コン畜生《ちくしょう》め、惚《ほ》れやがった癖《くせ》に、フフフフフ。
「お前少しどうかおしかえ、変だよ。
「何が。
「調子が。
「飛んだお師匠様《ししょうさん》だ、笑わせやがる。ハハハハ、まあ、いいから買って来な、一人飲みあしめえし。
「だって、無いものを。
「何だと。
「貸はしないし、ちっとも無いんだものを。
「智慧《ちえ》がか。
「いいえさ。
「べらぼうめえ、無《ね》えものは無えやナ、おれの脱穀《ぬけがら》を持って行きゃ五六十銭は遣《よこ》すだろう。
「ホホホホ、いい気ぜんだよ、それでいつまでも潜《もぐ》っているのかい。
「ハハハハ、お手の筋だ。
「だって、後《あと》はどうするエ。一張羅《いっちょうら》を無くしては仕様がないじゃあないか、エ、後ですぐ困るじゃ無いか。
「案じなさんな、銭があらあ。
「妙《みょう》だねえ、無いから帯や衣類《きもの》を飲もうというのに、そ
前へ 次へ
全24ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング