けられてもいつか互《たがひ》に尋ねあてゝ一所《いつしよ》になる。銀杏《いてふ》の樹の雄樹と雌樹とが、五里六里離れて居てもやはり実を結ぶ。漢の高祖の若い時、あちこちと逃惑つて山の中などに隠れて居ても、妻の呂氏がいつでも尋ねあてた。それは高祖の居るところに雲気が立つて居たからだといふが、いくら卜者《ぼくしや》の娘だつて、こけの烏のやうに雲ばかりを当にしたでは無からう。あれ程の真黒焦の焼餅やきな位だから、吾が夫のことでヒステリーのやうになると、忽ちサイコメトリー的、千里眼になつて、「吾が行へを寝《い》ぬ夢に見る」で、あり/\と分つて後追駈けたものであらうかも知れぬ。貞盛の妻もこゝでは憂き艱難しても夫にめぐり遇《あ》ひたいところだ。やうやくめぐり遇つたとするとハッとばかりに取縋《とりすが》る、流石《さすが》の常平太も女房の肩へ手をかけてホロリとするところだ。そこで女房が敵陣の模様を語る。柔らかいしつとりとした情合の中から、希望の火が燃え出して、扨《さて》は敵陣手薄なりとや、いで此機をはづさず討取りくれん、と勇気身に溢《あふ》れて常平太貞盛が突立上《つゝたちあが》る、チョン、チョ/\/\/\と幕
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