する者其数|幾許《いくばく》なるを知らず、況《いは》んや存命の黎庶《れいしよ》は、尽《こと/″\》く将門の為に虜獲せらるゝ也。」介の維幾、息男為憲を教へずして、兵乱に及ばしめしの由《よし》は、伏して過状を弁じ了《をは》んぬ。将門本意にあらずと雖《いへど》も、一国を討滅しぬれば、罪科軽からず、百県に及ぶべし。之によりて朝議を候《うかゞ》ふの間、しばらく坂東の諸国を虜掠《りよりやく》し了んぬ。」伏して昭穆《せうぼく》を案ずるに、将門は已に栢原《かしはばら》帝王五代之孫なり、たとひ永く半国を領するとも、豈《あに》非運と謂《い》はんや。昔兵威を振《ふる》ひて天下を取る者は、皆史書に見るところ也。将門天の与ふるところ既《すで》に武芸に在り、等輩を思惟するに誰か将門に比《およ》ばんや。而るに公家褒賞の由|无《な》く、屡《しば/″\》譴責《けんせき》の符を下さるゝは、身を省みるに恥多し、面目何ぞ施さん。推して之を察したまはば、甚だ以て幸《さいはひ》なり。」抑《そも/\》将門少年の日、名簿を太政大殿に奉じ、数十年にして今に至りぬ。相国摂政《しやうこくせつしよう》の世に意《おも》はざりき此事を挙げんとは
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