蒙《かうむ》らずして、星霜多く改まる、渇望の至り、造次《ざうじ》に何《いか》でか言《まを》さん。伏して高察を賜はらば、恩幸なり恩幸なり。」然れば先年源[#(ノ)]護等の愁状に依りて将門を召さる。官符をかしこみ、※[#「蚣のつくり/心」、第3水準1−84−41]然《しようぜん》として道に上り、祗候《しこう》するの間、仰せ奉りて云はく、将門之事、既に恩沢に霑《うるほ》ひぬ。仍《よ》つて早く返し遣《や》る者なりとなれば、旧堵《きうと》に帰着し、兵事を忘却し、弓弦を綬《ゆる》くして安居しぬ。」然る間に前《さきの》下総国介平良兼、数千の兵を起し、将門を襲ひ攻む。将門背走相防ぐ能《あた》はざるの間、良兼の為に人物を殺損奪掠《さつそんだつりやく》せらるゝの由《よし》は、具《つぶ》さに下総国の解文《げもん》に注し、官に言上《ごんじやう》しぬ、爰《こゝ》に朝家諸国に勢《せい》を合して良兼等を追捕す可きの官符を下され了《をは》んぬ。而《しか》るに更に将門等を召すの使を給はる、然るに心安からざるに依りて、遂に道に上らず、官使英保純行に付いて、由を具《ぐ》して言上し了んぬ。未だ報裁を蒙《かうむ》らず、欝包《う
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