か生捕るかしてやらうと息巻いた。維幾も常陸介、子息為憲もきかぬ気の若者、官権実力共に有る男だ。斯様《かう》なつては玄明は維幾に敵することは出来無い。そこで眼も光り口も利《き》ける奴だから、将門よりほかに頼む人は無いと、将門の処《ところ》へ駈込んで、何様《どう》ぞ御助け下さいと、切《しき》りに将門を拝み倒した。元来親分気のある将門が、首を垂れ膝を折つて頼まれて見ると、余《あま》り香《かん》ばしくは無いと思ひながらも、仕方が無い、口をきいてやらう、といふことになつた。居候の興世王は面白づくに、親分、縋《すが》つて来る者を突出す訳にはいかねえぢや有りませんか位の事を云つたらう。で、玄明は気が強くなつた。将門は常陸《ひたち》は元《もと》から敵にした国ではあり、また維幾は貞盛の縁者ではあり、貞盛だつて今に維幾の裾《すそ》の蔭か袖《そで》の蔭に居るのであるから、うつかり常陸へは行かれない。興世王はじめ皆相談にあづかつたに相違ないが、好うございますは、事と品とによれば刃金《はがね》と鍔《つば》とが挨拶《あいさつ》を仕合ふばかりです、といふ者が多かつたのだらう、とう/\天慶二年十一月廿一日常陸の国へ相
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