わうだう》に構《かま》へ込んで出頭などはしない。末には維幾も勘忍し兼ねて、官符を発して召捕るよりほか無いとなつて其の手配をした。召捕られては敵《かな》はないから急に妻子を連れて、維幾と余り親しくは無い将門が丁度《ちやうど》隣国に居るを幸《さいはひ》に、下総の豊田、即ち将門の拠処に逃げ込んだが、行掛《ゆきが》けの駄賃にしたのだか初対面の手土産《てみやげ》にしたのだか、常陸の行方《なめかた》郡|河内《かはち》郡の両郡の不動倉の糒《ほしひ》などといふ平常は官でも手をつけてはならぬ筈のものを掻浚《かつさら》つて、常陸の国ばかりに日は照らぬと極《き》め込んだ。勿論これだけの事をしたのには、維幾との間に一[#(ト)]通りで無いいきさつが有つたからだらうが、何にせよ悪辣《あくらつ》な奴だ。維幾は怒つて下総の官員にも将門にも移牒《いてふ》して、玄明を捕へて引渡せと申送つた。ところが尋常一様の吏員の手におへるやうな玄明では無い。いつも逃亡致したといふ返辞のみが維幾の所へは来た。維幾も後には業《ごふ》を煮やして、下総へ潜《ひそ》かに踏込んで、玄明と一[#(ト)]合戦して取挫《とりひし》いで、叩き斫《き》る
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