好いが、縄張《なはばり》が広くなれば出入《でい》りも多くなる道理で、人に立てられゝば人の苦労も背負つてやらねばならない。こゝに常陸の国に藤原|玄明《はるあき》といふ者があつた。元来が此《これ》は是《こ》れ一個の魔君で、余り性《しやう》の良い者では無かつた。図太《づぶと》くて、いらひどくて、人をあやめることを何とも思はないで、公に背《そむ》くことを心持が好い位に心得て、やゝもすれば上には反抗して強がり、下には弱みに付入つて劫《おび》やかし、租税もくすねれば、押借りも為《し》ようといふ質《たち》で、丁度幕末の悪侍《わるざむらひ》といふのだが、度胸だけは吽《うん》と堪《こた》へたところのある始末にいかぬ奴だつた。善悪無差別の悪平等《あくびやうどう》の見地に立つて居るやうな男だが、それでも人の物を奪つて吾が妻子に呉れてやり、金持の懐中《ふところ》を絞《しぼ》つて手下には潤《うるほ》ひをつけてやるところが感心な位のものだつた。で、こくめいな長官藤原維幾は、玄明が私《わたくし》した官物を弁償せしめんが為に、度※[#二の字点、1−2−22]の移牒《いてふ》を送つたが、斯様《かう》いふ男だから、横道《
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