なら汝《きさま》も勝手にしろ、乃公《おれ》も勝手にするといつた調子なのだらう、官も任地も有つたものでは無い、ぶらりと武蔵を出て下総へ遊びに来て、将門の許に「居てやるんだぞぐらゐな居候《ゐさふらふ》」になつた。「王の居候」だからおもしろい。「置候《おきさふらふ》」の相馬小次郎は我武者に強いばかりの男では無い、幼少から浮世の塩はたんと嘗《な》めて居る苦労人《くらうにん》だ。田原藤太に尋ねられた時の様子でも分るが、ようございますとも、いつまででも遊んでおいでなさい位の挨拶で快《こゝろよ》く置いた。誰にでも突掛《つゝか》かりたがる興世王も、大親分然たる小次郎の太ッ腹なところは性《しやう》に合つたと見えて、其儘《そのまゝ》遊んで居た。多分二人で地酒《ぢざけ》を大酒盃《おほさかづき》かなんかで飲んで、都出《みやこで》の興世王は、どうも酒だけは西が好い、いくら馬処《うまどころ》の相馬の酒だつて、頭の中でピン/\跳《は》ねるのはあやまる、将門、お前の顔は七ツに見えるぜ、なんのかのと管《くだ》でも巻いてゐたか何様《どう》か知らないが、細くない根性の者同士、喧嘩《けんくわ》もせずに暮して居た。
 大親分も
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