の興世王と経基とは、共に我《が》の強い勢《いきほひ》の猛《さか》しい人であつたと見え、前例では正任未だ到《いた》らざるの間は部に入る事を得ざるのであるのに、推《お》して部に入つて検視しようとした。武芝は年来公務に恪勤《かくきん》して上下《しやうか》の噂も好いものであつたが、前例を申して之を拒《こば》んだ。ところが、郡司の分際《ぶんざい》で無礼千万であると、兵力づくで強《し》ひて入部し、国内を凋弊《てうへい》し、人民を損耗《そんかう》せしめんとした。武芝は敵せないから逃げ匿《かく》れると、武芝の私物《しぶつ》まで検封してしまつた。で、武芝は返還を逼《せま》ると、却《かへ》つて干戈《かんくわ》の備《そなへ》をして頑《ぐわん》として聴かず、暴を以て傲つた。是によつて国書生等は不治悔過《ふぢくわいくわ》の一巻を作つて庁前に遺《のこ》し、興世王等を謗《そし》り、国郡に其非違を分明にしたから、武蔵一国は大に不穏を呈した。そして経基と興世王ともまた必らずしも睦《むつ》まじくは無く、様※[#二の字点、1−2−22]なことが隣国下総に聴えた。将門は国の守でも何でも無いが、今は勢威おのづから生じて、大親分
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