》るとは言へ、多勢の敵に対抗して居られるといふものは、勇悍《ゆうかん》である故のみでは無い、蓋《けだ》し人の同情を得てゐたからであつたらう。然無《さな》くば四方から圧逼《あつぱく》せられずには済まぬ訳である。
良兼は何様《どう》かして勝を得ようとしても、尋常《じんじやう》の勝負では勝を取ることが難かつた。そこで便宜《べんぎ》を伺《うかゞ》ひ巧計を以て事を済《な》さうと考へた。怠《おこた》り無く偵察《ていさつ》してゐると、丁度将門の雑人《ざふにん》に支部《はせつかべ》子春丸といふものがあつて、常陸の石田の民家に恋中《こひなか》の女をもつて居るので、時※[#二の字点、1−2−22]其許へ通ふことを聞出した。そこで子春丸をつかまへて、絹を与へたり賞与を約束したりして、将門の営の勝手を案内させることにした。将門は此頃石井に居た。石井は「いはゐ」と読むので、今の岩井が即《すなは》ちそれだ。子春丸は恋と慾とに心を取られ、良兼の意に従つて、主人の営所の勝手を悉《こと/″\》く良兼の士に教へた。良兼はほくそ笑《ゑ》んで、手腕のある者八十余騎を択《えら》んで、ひそ/\と不意打をかける支度をさせた。十二
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