てん》増大して、終に可なりの旧家が村にも落着いて居られぬやうになつた。これを知つてゐる自分の眼からは、一齣《いつしやく》の曲が観えてならない。真に夢の如き想像ではあるが、国香と護とは同国の大掾であつて、二重にも三重にもの縁合となつて居り、居処も同じ地で、極めて親しかつたに違ひ無い。若し将門が護の女《むすめ》を欲したならば、国香は出来かぬる縁をも纏《まと》めようとしたことであらう。其の方が将門を我が意の下に置くに便宜ではないか。して見れば将門始末の記するが如きことは先づ起りさうもない。もし反対に、護の女を国香が口をきいて将門に娶《めと》らせようとして、そして将門が強く之を拒否した場合には、国香は源家に対しても、自己の企に於ても償《つぐな》ひ難き失敗をした訳になつて、貞盛や良兼や良正と共に非常な嫌な思ひをしたことであらうし、護や其子等は不面目を得て憤恨したであらう。将門の妻は如何なる人の女であつたか知らぬが、千葉系図や相馬系図を見れば、将門の子は良兌《よしなほ》、将国、景遠、千世丸等があり、又十二人の実子があつたなどと云ふ事も見えるから、桔梗《ききやう》の前の物語こそは、薬品の桔梗の上品が
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