うるさく、何処《どこ》の唐草《からくさ》の精霊《ばけもの》かと嫌《いや》になったる心には悪口も浮《うか》み来《きた》るに、今は何を着すべしとも思い出《いだ》せず工夫錬り練り刀を礪《と》ぎぬ。

      下 堅く妄想《もうそう》を捏《でつ》して自覚|妙諦《みょうたい》

 腕を隠せし花一輪削り二輪削り、自己《おの》が意匠の飾《かざり》を捨て人の天真の美を露《あら》わさんと勤めたる甲斐《かい》ありて、なまじ着せたる花衣|脱《ぬが》するだけ面白し。終《つい》に肩のあたり頸筋《くびすじ》のあたり、梅も桜も此《この》君の肉付《にくづき》の美しきを蔽《おお》いて誇るべき程の美しさあるべきやと截《た》ち落《おと》し切り落し、むっちりとして愛らしき乳首、是《これ》を隠す菊の花、香も無き癖《くせ》に小癪《こしゃく》なりきと刀|急《せわ》しく是も取って払い、可笑《おかし》や珠運《しゅうん》自ら為《し》たる業《わざ》をお辰《たつ》の仇《あだ》が為《し》たる事の様《よう》に憎み今刻み出《いだ》す裸体《はだかみ》も想像の一塊《いっかい》なるを実在《まこと》の様に思えば、愈々《いよいよ》昨日は愚《おろか》なり
前へ 次へ
全107ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング