つ珠運《しゅうん》が作意の新仏体を刻まんとする程の願望《のぞみ》ある身の、何として今から妻など持《もつ》べき、殊にお辰は叔父《おじ》さえなくば大尽《だいじん》にも望まれて有福《ゆうふく》に世を送るべし、人は人、我は我の思わくありと決定《けつじょう》し、置手紙にお辰|宛《あ》て少許《すこしばかり》の恩を伽《かせ》に御身《おんみ》を娶《めと》らんなどする賎《いや》しき心は露持たぬ由を認《したた》め、跡は野となれ山路にかゝりてテク/\歩行《あるき》。さても変物、此《この》男木作りかと譏《そし》る者は肉団《にくだん》奴才《どさい》、御釈迦様《おしゃかさま》が女房|捨《すて》て山籠《やまごもり》せられしは、耆婆《きば》も匕《さじ》を投《なげ》た癩病《らいびょう》、接吻《くちづけ》の唇《くちびる》ポロリと落《おち》しに愛想《あいそ》尽《つか》してならんなど疑う儕輩《やから》なるべし、あゝら尊し、尊し、銀の猫《ねこ》捨《すて》た所が西行《さいぎょう》なりと喜んで誉《ほ》むる輩《ともがら》是も却《かえっ》て雪のふる日の寒いのに気が付《つか》ぬ詮義《せんぎ》ならん。人間元より変な者、目盲《めしい》てから
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