《きもだま》なしでも仕憎《しにく》い事、殊更|最前《さいぜん》も云うた通りぞっこん善女《ぜんにょ》と感じて居る御前《おまえ》の憂目《うきめ》を余所《よそ》にするは一寸の虫にも五分の意地が承知せぬ、御前の云わぬ訳も先後《あとさき》を考えて大方は分って居るから兎《と》も角《かく》も私の云事《いうこと》に付《つい》たがよい、悪気でするではなし、私の詞《ことば》を立《たて》て呉《く》れても女のすたるでもあるまい、斯《こう》しましょ、是《これ》からあの正直|律義《りちぎ》は口つきにも聞ゆる亀屋《かめや》の亭主に御前を預けて、金も少しは入るだろうがそれも私がどうなりとして埒《らち》を明《あけ》ましょう、親類でも無い他人づらが要《い》らぬ差出《さしで》た才覚と思わるゝか知らぬが、妹《いもと》という者|持《もっ》ても見たらば斯《こう》も可愛い者であろうかと迷う程いとしゅうてならぬ御前が、眼《め》に見えた艱難《かんなん》の淵《ふち》に沈むを見ては居られぬ、何私が善根|為《し》たがる慾《よく》じゃと笑うて気を大きく持《もつ》がよい、さあ御出《おいで》と取る手、振り払わば今川流、握り占《しめ》なば西洋流か、
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