娘が調子外れの金切声《かなきりごえ》今も昔わーワッとお辰のなき立つ事の屡《しばしば》なるに胸苦しく、苦労ある身の乳も不足なれば思い切って近き所へ里子にやり必死となりて稼《かせ》ぐありさま余所《よそ》の眼《め》さえ是《これ》を見て感心なと泣きぬ。それにつれなきは方様《かたさま》の其後《そののち》何の便《たより》もなく、手紙出そうにも当所《あてどころ》分らず、まさかに親子|笈《おい》づるかけて順礼にも出られねば逢《あ》う事は夢に計《ばか》り、覚めて考うれば口をきかれなかったはもしや流丸《それだま》にでも中《あた》られて亡くなられたか、茶絶《ちゃだち》塩絶《しおだち》きっとして祈るを御存知ない筈《はず》も無かろうに、神様も恋しらずならあり難くなしと愚痴と一所《いっしょ》にこぼるゝ涙流れて止《とどま》らぬ月日をいつも/\憂いに明《あか》し恨《うらみ》に暮らして我《わが》齢《とし》の寄るは知ねども、早い者お辰はちょろ/\歩行《あるき》、折ふしは里親と共に来てまわらぬ舌に菓子ねだる口元、いとしや方様に生き写しと抱き寄せて放し難く、遂《つい》に三歳《みっつ》の秋より引き取って膝下《ひざもと》に育《そ
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