みほん》を好きました故《ゆえ》か、斯《こう》いう話を致しますると図に乗っておかしな調子になるそうで、人我《にんが》の差別《しゃべつ》も分り憎くなると孫共《まごども》に毎度笑われまするが御聞《おきき》づらくも癖ならば癖ぞと御免《おゆるし》なされ。さてもそののち室香《むろか》はお辰を可愛《かわゆ》しと思うより、情《じょう》には鋭き女の勇気をふり起して昔取ったる三味《しゃみ》の撥《ばち》、再び握っても色里の往来して白痴《こけ》の大尽、生《なま》な通人《つうじん》めらが間《あい》の周旋《とりもち》、浮《うか》れ車座のまわりをよくする油さし商売は嫌《いや》なりと、此度《このたび》は象牙《ぞうげ》を柊《ひいらぎ》に易《か》えて児供《こども》を相手の音曲《おんぎょく》指南《しなん》、芸は素《もと》より鍛錬を積《つみ》たり、品行《みもち》は淫《みだら》ならず、且《かつ》は我子《わがこ》を育てんという気の張《はり》あればおのずから弟子にも親切あつく良い御師匠《おししょう》様と世に用いられて爰《ここ》に生計《くらし》の糸道も明き細いながら炊煙《けむり》絶《たえ》せず安らかに日は送れど、稽古《けいこ》する小
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