妖魅霊異の事も半信半疑ながらにむしろ信じられて居りました。で、八犬士でも為朝でもそれらを否定せぬ様子を現わして居ります。武術や膂力《りょりょく》の尊崇された時代であります。で、八犬士や為朝は無論それら武徳の権化《ごんげ》のようになって居ります。これらの点をなお多く精密に数えて、そして綜合して一考しまする時は、なるほど馬琴の書いたようなヒーローやヒロインは当時の実社会には居らぬに違い無いが、しかし馬琴の書いたヒーローやヒロインは当時の実社会の人々の胸中に存在して居たもので、決して無茶苦茶に馬琴が捏造したものでもよそから借りて来たものでも無いという事は分明《ふんみょう》であります。そして馬琴の小説はその点でも、当時の実社会と相離れ得ぬ強い関係交渉を持って居ると申す事が出来ると存じます。
翻って第三の平凡人物即ち「端役の人物」を観ますと、ここに面白い現象が認められます。例を申しましょうなら、端役の人物の事ゆえ『八犬伝』を御覧の方でも御忘れでしょうが、小文吾《こぶんご》が牛の闘を見に行きました時の伴《とも》をしました磯九郎《いそくろう》という男だの、角太郎が妻の雛衣《ひなきぬ》の投身《みなげ
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