》せんとしたのを助けたる氷六《ひょうろく》だの、棄児《すてご》をした現八の父の糠助《ぬかすけ》だの、浜路《はまじ》の縁談を取持った軍木五倍二《ぬるでごばいじ》だの、押かけ聟の簸上宮六《ひかみきゅうろく》だの、浜路の父|蟇六《ひきろく》だの母の亀篠《かめささ》だの、数え立てますれば『八犬伝』一部中にもどの位居るか知れませぬが、これらの人物は他の人物と共にやはり例の過去というレースのかなたに居る人物であるにかかわらず、即ち馬琴の生存して居る当時の実社会とは遥かに隔たって居る時代の人物であるにかかわらず、その実はその当時の実社会の人物なのであります。言い換えますれば馬琴が作中のこれらの第三類の人物は大抵その当時に存在して居るところの人物なのであります。たとえば磯九郎という男は、勇者の随伴《とも》をして牛の闘を見にまいりますと、ふと恐ろしい強い牛が暴れ出しまして、人々がこれを取り押えることが出来ぬという場合、牛に向って来られたので是非なく勇者たる小文吾がその牛を取り挫《ひし》いで抑えつけます。そこで人々は恩を謝し徳をたたえて小文吾を饗応します。すると磯九郎は自分が大手柄でも仕《し》たように威張
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