叔母も日頃は養ひ娘の賢き可愛《いとし》さと、生《うみ》の女《むすめ》の自然《おのづから》なる可愛《いとし》さとに孰れ優り劣り無く育てけるが、今年は二人ともに十六になりぬ、髪の艶、肌の光り、人の※[#「女+瑁のつくり」、第4水準2−5−68]《そね》み心を惹くほどに我子は美しければ、叔母も生《おふ》したてたるを自《おの》が誇りにして、せめて四位の少将以上ならでは得こそ嫁《あは》すまじきなど云ひ罵り、おのが真の女をば却つて心にも懸け居ざるさまにもてあつかひ居たりしが、右の大臣の御子|某《それ》の少将の、図らずも我が女をば垣間見玉ひて懸想し玉ひしより事起りて、叔母の心いと頑兇《かたくな》になり日に/\口喧《くちかしがま》しう嘲《あざ》み罵り、或時は正なくも打ち擲き、密に調伏の法をさへ由無き人して行せたるよしなり、某の少将と云へるは才賢く心性《こゝろざま》誠ありて優しく、特《こと》に玉を展べたる様の美しき人なれば、自己が生の女の婿がねにと叔母の思ひつきぬるも然ることながら、其望みの思ふがまゝにならで、飾り立てたる我が女には眼も少将の遣り玉はざるが口惜しとて、養ひ娘を悪くもてあつかふ愚さ酷さ、昔
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