の敵《あだ》なれば打壊《うちくづ》さでは已むまじきぞ、心に染まぬ大千世界、見よ/\、火前の片羽となり風裏の繊塵《せんぢん》と為して呉れむ、仏に六種の神通あれば朕に千般の業通あり、ありとあらゆる有情含識《うじやうがんしき》皆朕が魔界に引き入れて朕が眷属となし果つべし、汝が述べたるところの如きは円顱の愚物が常套の談、醜し、醜し、将《もち》帰り去れ、※[#「けものへん+胡」、122−下−21]※[#「けものへん+孫」、122−下−21]《こそん》が瞋《いかり》を賺《す》かす胡餅《こべい》の一片、朕を欺かんとや、迂なり迂なり、想ひ見よ、そのかみ朕此讃岐の涯に来て、沈み果てぬる破舟《やれぶね》の我にもあらず歳月《としつき》を、空しく杉の板葺の霰に悲しき夜を泣きて、風につれなき日を送り、心くだくる荒磯の浪の響に霜の朝、独り寐覚めし凄じさ、思ひも積る片里の雪に灯火《ともし》の瞬く宵、たゞ我が影の情無く古びし障子に浸み入るを見つめし折の味気無さ、如何ばかりなりしと汝思ふや、歌の林に人の心の花香をも尋ね、詞の泉に物のあはれの深き浅きをも汲みて分くる、敷嶋の道の契りも薄からず結びし汝なれば、厳しく吹きし初
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