道の大心を発し玉へ、と我知らず地を撃つて諫め奉れば、院の御亡霊《みたま》は、山壑《さんがく》もたぢろき木石も震ふまでに凄《すさまじ》くも打笑はせ玉ひて、おろかなり円位、仏が好ましきものにもあらばこそ、魔か厭はしきものにもあらばこそ、安楽も望むに足らず、苦患《くげん》も避くるに足らず、何を憚りてか自ら意《こゝろ》を抑へ情《おもひ》を屈めん、妄執と笑はば笑へ、妄執を生命として朕《われ》は活き、煩悩と云はば云へ、煩悩を筋骨として朕は立つ、おろかや汝、四弘誓願《しぐせいぐわん》は菩薩の妄執、五時説教は仏陀の煩悩、法蔵が妄執四十八願、観音が煩悩三十三|身《じん》、三世十方|恒河沙数《がうがしやすう》の諸仏菩薩に妄執煩悩無きものやある、妄執煩悩無きものやある、何ぞ瞿曇《ぐどん》が舌長《したなが》なる四十余年の託言《かごと》繰言《くりごと》、我尊しの冗語《じようご》漫語《まんご》、我をば瞞《あざむ》き果《おほ》すに足らんや、恨みは恨み、讐《あだ》は讐、復《かへ》さでは我あるべきか、今は一切世間の法、まつた一切世間の相、森羅万象人畜草木《しんらばんしやうにんちくさうもく》、悉皆《しつかい》朕《わがみ》
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