の齎らす火輪にも駕《が》さんとは思したまふ、生空《しやうくう》を唯薀《ゆゐうん》に遮し、我倒《がたう》を幻炎に譬ふれば、我が瞋《いか》るなる我や夫《それ》いづくにか有る、瞋るが我とおぼすか我が瞋るとおぼすか、思ひと思ひ、言ふと言ふ万端《よろづ》のこと皆|真実《まこと》なりや、訝《いぶ》かれば訝かしく、疑へば疑はしきものとこそ覚え侍れ、笑ひも恨みも、はた歓びも悲みも、夕に来ては旦《あした》に去る旅路の人の野中なる孤屋《ひとつや》に暫時《しばし》宿るに似て、我とぞ仮に名を称《よ》ぶなるものの中をば過ぐるのみ、いづれか畢竟《つひ》の主人《あるじ》なるべき、客《かく》を留めて吾が主と仰ぎ、賊を認めて吾が子となす、其悔無くばあるべからず、恐れ多けれど聡明|匹儔《たぐひ》無く渡らせたまふに、凡庸も企図せざるの事を敢て為玉ひて、千人の生命を断たんと瞋恚《じんゐ》の刀を提《ひつさ》げし央掘魔《あうくつま》が所行《ふるまひ》にも似たらんことを学ばせらるゝは、一婦の毒咒《どくじゆ》に動かされて総持の才を無にせんとせし阿難陀《あなんだ》が過失《あやまち》にも同じかるべき御迷ひ、御傷《おんいた》はしくもまた口
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