なり玉ひし御事、あまりと申せば御傷《おんいたは》しく、後の世のほども推し奉るにいと恐ろしゝ。いざや終夜《よもすがら》供養したてまつらむと、御墓《みしるし》より少し引きさがりたるところの平《ひら》めなる石の上に端然《たんねん》と坐をしめて、いと静かにぞ誦しいだす。妙法蓮華経提婆達多品《めうほふれんげきやうだいばだつたぼん》第十二。爾時仏告諸菩薩及天人四衆《にじぶつかうしよぼさつきふてんにんししゆ》、吾於過去無量劫中《ごおくわこむりやうごふちゆう》、求法華経無有懈倦《ぐほけきやうむうげけん》、於多劫中常作国王《おたごふちゆうじやうさこくわう》、発願求於無上菩提《ほつぐわんぐおむじやうぼだい》、心不退転《しんふたいてん》、為欲満足六波羅密《ゐよくまんぞくろくはらみつ》、勤行布施《ごんぎやうふせ》、心無悋惜《しんむりんじやく》、象馬七珍国城妻子奴婢僕従《ざうめしつちんこくじやうさいしぬびぼくじゆう》、頭目身肉手足不惜躯命《づもくしんにくしゆそくふじやくくみやう》、……
日は全く没《い》りしほどに山深き夜のさま常ならず、天かくすまで茂れる森の間に微なる風の渡ればや、樹端《こずゑ》の小枝《さえだ
前へ
次へ
全52ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング