も固《もと》より憎むに足らず、三春の花も凋落の夕には芬芳《ふんばう》の香り早く失せて、※[#「虫+夾」、第3水準1−91−54]蝶《けふてふ》漸く情疎《じやうそ》なるもまた恨むに詮なし。恐れ多けれども一天万乗の君なりとて欲界の網羅を脱し得玉はねば、如是《かく》なり玉ふこと如是なり玉ふべき筈あり、憎まむ世も無く恨まむ天もあるべからず。おもんみれば、赫※[#二の字点、1−2−22]たる大日輪は螻蟻《ろうぎ》の穴にも光を惜まず、美女の面《おもて》にも熱を減ぜず、茫※[#二の字点、1−2−22]たる大劫運《だいごふうん》は茅茨《ばうし》の屋よりも笑声を奪はず、天子眼中にも紅涙を餽《おく》る、尽大地《じんだいち》の苦、尽大地の楽、没際涯《ぼつさいがい》の劫風《ごふふう》滾※[#二の字点、1−2−22]《こん/\》たり、何とりいでゝ歎き喞たむ。さはさりながら現土には無上の尊き御身をもて、よしなき事をおぼしたゝれし一念の御迷ひより、幾干《いくそ》の罪業《つみ》を作り玉ひし上、浪煙る海原越えて浜千鳥あとは都へ通へども、身は松山に音をのみぞなく/\孤灯に夜雨を聴き寒衾《かんきん》旧時を夢みつゝ、遂に空く
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