く彼方の峯に既《はや》没《い》りて、梟の羽※[#「睹のつくり/栩のつくり」、第4水準2−84−93]《はばたき》し初め、空やゝ暗くなりしばかりなり。木立わづかに間《ひま》ある方の明るさをたよりて、御陵《みさゝぎ》尋ねまゐらする心のせわしく、荊棘《いばら》を厭はでかつ進むに、そも/\これをば、清凉紫宸《せいりやうししん》の玉台に四海の君とかしづかれおはしませし我国の帝の御墓ぞとは、かりそめにも申得たてまつらるべきや、わづかに土を盛り上げたるが上に麁末《そまつ》なる石を三重に畳みなしたるあり。それさへ狐兎《こと》の踰《こ》ゆるに任せ草莱《さうらい》の埋むるに任せたる事、勿体なしとも悲しとも、申すも畏し憚りありと、心も忽ち掻き暗まされて、夢とも現《うつゝ》とも此処を何処とも今を何時とも分きがたくなり、御墓の前に平伏《ひれふ》して円顱《ゑんろ》を地に埋め、声も得立てず咽《むせ》び入りぬ。
其四
実《げ》にも頼まれぬ世の果敢《はか》なさ、時運は禁腋《きんえき》をも犯し宿業は玉体にも添ひたてまつること、まことに免れぬ道理《ことわり》とは申せ、九重の雲深く金殿玉楼の中にかしづかれ
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