ら痛きに、とうふのかたさは芋《いも》よりとはあまりになさけなかりければ、
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塩辛《しおから》き浮世のさまか七《しち》の戸《へ》の
ほそきどじょうの五分切りの汁《しる》
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十四日、朝早く立《たち》て行く間なく雨しとしとふりいでぬ。きぬぎぬならばやらずの雨とも云うべきに、旅には憂《う》きことのかぎりなり。三本木もゆめ路にすぎて、五戸《ごのへ》にて昼飯す。この辺牛馬殊に多し。名物なれど喰うこともならず、みやげにもならず、うれしからぬものなりと思いながら、三の戸まで何ほどの里程《みちのり》かと問いしに、三里と答えければ、いでや一走りといきせき立《たっ》て進むに、峠《とうげ》一つありて登ることやや長けれども尽《つ》きず、雨はいよいよ強く面をあげがたく、足に出来たる「まめ」ついにやぶれて脚《あし》折るるになんなんたり。並木《なみき》の松もここには始皇をなぐさめえずして、ひとりだちの椎はいたずらに藤房《ふじふさ》のかなしみに似たり。隧道《トンネル》に一やすみす。この時またみちのりを問うに、さきの答は五十町一里なりけり。とかくして涙ながら三戸に
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