小女のかね黒々と染《そめ》ぬるものおおきも、むかしかたぎの残れるなるべしとおぼしくて奇《き》なり。見るものきくもの味《あじわ》う者ふるるもの、みないぶせし。笥《け》にもるいいを椎《しい》の葉のなぞと上品の洒落《しゃれ》など云うところにあらず。浅虫にいでゆあるよしなれど、みちなかなればいらずありき、途中《とちゅう》帽子《ぼうし》を失いたれど購《あがな》うべき余裕《よゆう》なければ、洋服には「うつり」あしけれど手拭《てぬぐい》にて頬冠《ほおかぶ》りしけるに、犬の吠《ほ》ゆること甚《はなはだ》しければ自ら無冠《むかん》の太夫《たゆう》と洒落ぬ。旅宿《やど》は三浦屋《みうらや》と云うに定めけるに、衾《ふすま》は堅《かた》くして肌《はだ》に妙ならず、戸は風|漏《も》りて夢《ゆめ》さめやすし。こし方行末おもい続けてうつらうつらと一夜をあかしぬ。
十三日、明けて糠《ぬか》くさき飯ろくにも喰《く》わず、脚半《きゃはん》はきて走り出づ。清水川という村よりまたまた野辺地《のべち》まで海岸なり、野辺地の本町《ほんまち》といえるは、御影石《みかげいし》にやあらん幅《はば》三尺ばかりなるを三四丁の間|敷《し》
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