すいもの》いとうまし、海の景色も珍《めず》らし。
十九日、夜来の大雨ようよう勢衰《いきおいおとろ》えたるに、今日は待ちに待ちたる松島見んとて勇気も日頃にましぬ。いでやと毛布《ケット》深くかぶりて、えいさえいさと高城にさしかかれば早や海原《うなばら》も見ゆるに、ひた走りして、ついに五大堂|瑞岩寺《ずいがんじ》渡月橋《とげつきょう》等うちめぐりぬ。乗合い船にのらんとするに、あやにくに客一人もなし。ぜひなく財布《さいふ》のそこをはたきて船を雇《やと》えば、ひきちがえて客一人あり、いまいましきことかぎりなし。されどおもしろき景色にめでて煩悩《ぼんのう》も軽きはいとよし。松島の景といえばただただ、松しまやああまつしまやまつしまやと古人もいいしのみとかや、一ツ一ツやがてくれけり千松島とつらねし技倆《ぎりょう》にては知らぬこと、われわれにては鉛筆《えんぴつ》の一ダース二ダースつかいてもこの景色をいい尽し得べしともおもえず。東西南北、前後左右、あるいは大あるいは小、高きあり、ひくきあり、みの亀《がめ》の尾《お》ひきたるごとき者、臥《ふ》したる牛の首あげたるごとき者あり、月島星島|桂島《かつらじま》、
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