の塩尻に出でしより、人皆之に従ひて怪まず、多くの画にも、人の赤き烏帽子冠れるさまを描きたれど、土地によりては、赤烏帽子と云はずして、「亭主の好きな赤鰯」といふもあるなり。赤鰯は鰯の塩蔵|若《もし》くは乾蔵せるものにして、其の味の美ならざること言ふまでも無し。語の意は、赤鰯珍とするに足らず、されど亭主之を好まば又数※[#二の字点、1−2−22]用ゐられんのみ、人之を如何ともする無し、といふに在り。寺から里へとは、物の顛倒せるを云ふ。二諺共に妙無し。
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東 あたま隠して尻かくさず
西 あきなひは牛の涎
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 東のは蔵頭露尾の醜を笑ひ、西のは商估の道、気を伏せ心を寛うすべきを云へるなり。西の諺教へ得て甚だ好し。
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東 三遍回つて煙草にしよ
西 猿も木から墜ちる
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 能く勤めて而して後休む可しと云ふは東のなり。既に慣るゝも猶且つ過つ有らんと云ふは西のなり。共に嘉言にして佳趣あり。
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東 聞いて極楽見
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