[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 老いては子に従ふ
西 負ふた子に教へられ
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 共に仮名違ひながら其は云はでも有らなむ。一は老者の自ら主とせざるを可とするを云ひ、一は幼者の智も亦《また》師とす可きあるを云へる、彼此共に其の意の聊《いささ》か似通へるところあるもをかし。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 われ鍋に綴蓋
西 笑ふ門には
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 此は、如何なる賤陋《せんろう》のものにも、世おのづからこれと相従ひ相《あひ》幇《たす》けて功を共にし楽を分つものあるを云ひ、彼は、先づ自ら楽みて笑ひ、又能く笑ひて人を楽ましむるものは、おのづからに和を致して而して福を来すに及ぶを道破せる、共に愉快なる佳諺《かげん》なり。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 かつたいの痂《かさ》うらみ
西 蛙の面に水
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東は悪因を有するものの徒《いたづら》に悪果を恨み歎ずるを笑ひ、西は冷※[#二の字点、1−2−22]然として平らかなるものの如何ともす可からざるを憎めるなり。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 よしのずゐから天を覗く
西 よめとほめ
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 葭管《かくわん》より天を窺ふは、管小に過ぎ天大に過ぎて尽す可きにあらず、夜眼遠眼、凡を過つて美となすことあり信ず可からず、二者意相似て聊か異なり。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 たびは道づれ
西 たていたに水
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東は同伴者の尊ぶべきを云ひ、西は単に弁舌の快なるを云へり。東の諺の方、意に於て優りたり。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 れうやく口に苦し
西 れんぎで腹切る
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 腹は擂木を以て切るべきにあらず、能はざる事をば滑稽に云ひ取れるなり。良薬は口に苦けれど病をば癒すべし。これも東の諺の方宜しけれど、仮名違なるは是非なし。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 惣領の甚六
西 袖のふりあはせも
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東は長子の愚多きを云ひ、(或は曰く自然に禄を伝へ受くるをいふと)西は瑣※[#二の字点、1−2−22]の因縁も
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