て地獄
西 義理と犢鼻褌
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東のは、耳聞と目撃との甚だ異なるを云ひ、西のは、欠く能はざるものの畢竟欠くべきにあらざるを云へるなり。東の方の諺佳趣あり。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 ゆだん大敵
西 ゆうれいの浜風
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東のは意義顕露なり。西のは情趣晦昧なり。幽魂の海風に吹き散ぜらるゝが如く、力無きものの、終《つひ》に自ら保つ能はざるを云へるか。西の諺、東には行はれず。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 めの上のたん瘤
西 めくらのかきのぞき
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 眼上の肉瘤、甚だ厭ふ可く、盲者の目を張る、又何の益あらんとなり。二諺共に佳趣無し。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 身から出た錆
西 身は身でとほる
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東のは※[#「金+肅」、読みは「しゅう」、第3水準1−93−39]花外より到るにあらず、災星多くは自ら招くを云ひ、西のは、口あれば食はざること無く、肩あれば衣ざること無く、憂ふる勿れ身あれば即ち活くに足るとなり。東西共におもしろし。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 知らぬが仏
西 しわんぼの柿の核子《たね》
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 無悩又無憂、知らざるもの即ち是れ仏なり。吝嗇の徒柿の核子にもまた依※[#二の字点、1−2−22]恋※[#二の字点、1−2−22]として之を棄つる能はざる、悲む可く笑ふ可きなり。東の方おもしろし。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 縁は異なもの
西 縁の下の舞
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東のは赤縄紅糸の相牽連するは、人意を以て測る可からざるものあるを云ひ、西のは縁の下の舞の舞ひ得て妙なるも、堂上の眼に入らざることを云へるなり。東の方にて「縁の下の力持」と云ふよりも舞といへるはおもしろし。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 びん乏暇無し
西 瓢箪に鯰
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 貧者余閑無しといへる、瓢箪は鯰を捉ふ可からずといへる、二語共に妙無し。西の諺、むかしは「膝がしらの江戸行」といへるなりしよし。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 もんぜんの小僧習はぬ経を
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング