読む
西 餅屋は餅屋
[#ここから2字下げ、小さい活字]
東のは薫染の力の大なるをいひ、西のは当業の技の優れたるを云へる、意は異なれど、勝劣無きに近し。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 せに腹はかへられぬ
西 雪隠で饅頭
[#ここから2字下げ、小さい活字]
東のは、親は疎に代ふる能はざるを云ひ、西のは自利の念の甚しきや陋醜唾棄すべきの事を敢てするに至るを嘲れるなり。西のの諺、痛刻ならざるにあらず、たゞ其の狠毒《こんどく》の極汚穢を諱まざるを病む。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 粋が身をくふ
西 雀百まで躍りやまず
[#ここから2字下げ、小さい活字]
才有り行無くして路花《ろか》墻柳《しやうりう》の間に嬉笑するもの、多くは自ら悦び自ら損ずるを悲めるは東の方の諺にして、※[#「還」の「しんにゅう」に代えて「けものへん」、読みは「けん」、164−17]薄《けんはく》乖巧《くわいかう》の人の其性改まらずして、老に至つて猶紅灯緑酒の間に※[#「遍」の「しんにゅう」に代えて「あしへん」、読みは「へん」、164−17]※[#「遷」の「しんにゅう」に代えて「あしへん」、読みは「せん」、164−17]するものを歎ぜるは西の言なり。二語皆佳。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 京の夢大阪の夢
西 京に田舎あり
[#ここから2字下げ、小さい活字]
京の夢大阪の夢といへる諺、古より明解無し。無境漂蕩定まり無きを云ふ歟、或は曰く、京に在つて夢みる時は却て大阪を夢むといふの意にして、夢魂多くは異境に飛び旧時に還るを云へるなりと。京に田舎有りといへるは、物必らずしも全美全雅なる能はざるを云へるなり。西の諺、意明らかにして趣有り。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
底本:「日本の名随筆70 語」作品社
1988(昭和63)年8月25日第1刷発行
1992(平成4)年4月10日 第7刷発行
底本の親本:「露伴随筆 第二冊」岩波書店
1983(昭和58)年4月
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:渡邉 つよし
校
前へ
次へ
全9ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング