その凸《たか》く張り出でたるところを似つかわしきものに擬《よそ》えて、昔の法師らの呼びなせしものにて、窟の内に別に一々岩あるにはあらず。
道二つに岐《わか》れて左の方に入れば、頻都廬《びんずる》、賽河原《さいのかわら》、地蔵尊、見る目、※[#「鼾のへん+嗅のつくり」、第4水準2−94−73]《か》ぐ鼻、三途川《さんずのかわ》の姥石《うばいし》、白髭明神、恵比須、三宝荒神、大黒天、弁才天、十五童子などいうものあり。およそ一町あまりにして途《みち》窮まりて後戻りし、一度|旧《もと》の処に至りてまた右に進めば、幅二尺ばかりなる梯子《はしご》あり。このあたり窟の内闊くしてかえって物すさまじ。梯の子十五、六ばかりを踏みて上れば、三十三天、夜摩天、兜率天《とそつてん》、※[#「りっしんべん+刀」、第3水準1−84−38]利天《とうりてん》などいうあり、天人石あり、弥勒仏《みろくぶつ》あり。また梯子を上りて五色の滝、大梵天、千手観音などいうを見る。難界が谷というは窟の中の淵ともいうべきものなるが、暗くしてその深さを知るに由なく、さし覗くだに好《よ》き心地せず。蓮花幔とて婦燭を岩の彼方にさしつくれば
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